教育現場での活用例をご紹介!②
前記事では小学校でのICT活用事例についてご紹介しました。今回は、中学校での活用事例についてご紹介していきます!
中学校でもスタート!プログラミングの拡充へ
2020年度の小学校での文部科学省による新学習指導要領実施に続き、中学校においても、2021年度より実施となりました。
プログラミングは、教科では「技術・家庭」の中で技術分野を中心に行われます。
実際のところ、新学習指導要領実施前から中学校ではすでにプログラミング教育は行われていますが、その内容は主に設計・制作、計測・制御といったものでした。
新学習指導要領においては、これらの項目についてプログラミングによる問題の解決に主軸が置かれています。
オリンピックと関連付けたプログラミングの授業を実施
私立女子中学校での事例を見てみましょう。
全10回さまざまな要素に触れながら、オリンピックとプログラミングを関連付けて進めていきます。
流れは以下の通りです。
プログラミングと私たちの生活
まずは生徒たちに、「どんなところでプログラミングが用いられているのか」という問いを投げかけ、グループに別れて話し合いを深めていきました。
はじめのうちは「?」がたくさん頭に浮かんでいるような表情を浮かべていた生徒たちにも、例を挙げ、身近なものにプログラミングが使われているという話をしてからはイメージがしやすくなったようです。
例えば、信号機には、点灯や点滅時間を制御するプログラムが、自動販売機には、お金を識別し選択された商品を提供するなどのプログラムが使われています。
その後は「これは?」「あれは?」というように、一度気づきを得たことで冷蔵庫、炊飯器、テレビなど、たくさん挙げられました。
ここで生徒たちに知ってもらいたかったのは、プログラミングによって生活が便利になること、そのアイデアを形にしているのは「人のちから」であること、そしてプログラミングはとても身近なものであるということ。
コンピュータに指令を出す(=プログラミングする)ということの導入として実施したのです。
実際にプログラミングにチャレンジ
とても身近なものだとわかったところで、実際に数種類の機器に触れていくことに。Scratch(スクラッチ)とドローンに触れてみます。
これらについて、少しだけご紹介します。
―Scratchとは?
ビジュアルプログラミング言語のひとつで、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで開発されました。
ブロックを組み合わせることで視覚的にも理解しやすいプログラミング教材で、学校でも多く導入されています。
ゲームだけではなくストーリーを自分で作ることも可能。動く紙芝居のようなイメージで、登場させるキャラクターに喋らせたり、音や声をつけたりすることもできます。
指示が書かれた多種多様なブロックを組み合わせることによって、より細かい命令を出すことも可能です。
この事例では、オリンピックの課題点と解決策について、Scratchを使って考えることになりました。
詳しくは後述します。
―ドローンとは?
ドローンは、空撮や農業など、幅広く活用されています。
また、遠隔操作だけでなくプログラミングでも操作することが可能です。
2018年の平昌オリンピック開会式で、光を放つ1218台のドローンによる演出があったことは記憶に新しいのではないでしょうか。
こちらの演出にもプログラミングが使われていたのです。
今回の授業でも、タブレットを使ったプログラミングでの操作法にも触れました。
Scratchと同様、ブロックを使って命令し動かします。
上昇下降(〇センチ上がる)、前進・後退(〇センチ進む)、回転(〇度回る)というように、数値は自分で入力します。
ドローンに限った話ではないのですが、入力する数値は「正の数・負の数」や「角度」を使うので、算数・数学の知識もたくさん必要になります。
これらを踏まえ、障害物をよけながら動くようプログラミングし、操作しました。
ドローンを通じて、プログラミングの操作方法に触れている様子(画面中央の黒い機体がドローン「Tello EDU」)
オリンピックではどんな課題点がある?
いよいよ本題に入っていきます。
オリンピックの開催によって、世界各国からたくさんの人が訪れます。
選手はもちろん競技の観戦客、関係者もまた然りです。
来るべきオリンピックを想定し、どんな課題がありそうなのかをグループワークで話し合い、ワークシートにまとめていきます。
ここでも小学生に負けないくらい、さまざまな意見が出てきました。
主に生徒たちが注目したのは、次の3点です。
- ゴミのポイ捨て問題
- 言葉の問題
- 警備問題
これらの問題解決のためには、どんな方法が必要なのかを考えました。
ゴミのポイ捨て問題
そもそも、ゴミをゴミ箱に捨ててもらえるようにする必要があります。
そこで生徒たちが考えたのは、より多くのゴミ箱の設置です。
日本では分別も細かいため、分別のしかたをわかりやすくするというアイデアが出てきました。
ゴミの投入口のサイズを必要に応じて変えるなどの工夫をすると、リサイクル出来るものを確実に分けられるのではないかと考えたのです。
言葉の問題
日本国内にいると、日本語が理解できれば不自由なことはありません。
しかし、世界中から多くの人達が来日するとなると、外国語に対応できるようにしておく必要があります。
案内板や地図、パンフレット等には日本語以外に外国語の表記があるか、もしくは外国語バージョンで作成されたものもあるでしょう。
しかし、対人での対応となると難しいかもしれません。
通訳できる人が常にいれば問題はありませんが、外国人のいるところに必ずそのような存在がいるとは限りません。
ですから、気軽に使いたいと思ったときにパッと使えるような翻訳できるサービスがあるととても便利です。
警備の問題
人が多く集まるところでは、犯罪やテロが起きることも考えられます。
犯罪を未然に防ぐために、警備を強化しなければという意見が出されました。
この点に関しては、政府・警察ともに対策をしていることがわかりました。
制服を着た警察官を街に配置、巡回させたりパトカーを活用したりと、「警察が見ている」ということがわかるようにします。
そして犯罪やテロというのは、リアルにのみ存在するわけではありません。
サイバー攻撃も視野に入れて備えなければならず、警察ではサイバー攻撃にも対応できるよう、訓練をしていることがわかりました。
実際にプログラミングしてみる
先に挙げた課題解決方法が実現した世界を、Scratchでプログラミングして、ストーリーとして作り上げていきます。
どのような流れにするか、どのようなキャラクターを使うのか、どうやったらより伝わる内容になるのか。
表現のアイデアを出すところまでは順調に進められても、実際にそれをカタチにしていくのは難しいものです。
プログラムを作っては検証、作っては検証を幾度となくくり返していきました。
うまくいかなくても、そこであきらめることなく「どうしたら?」という前向きな思考で取り組んでいた生徒達の目は、真剣そのものでした。
キャラクターの動き一つにしても、どのようにブロックを組み合わせるかにより指示内容が変わってしまうため、しっかりと順序立てて行わなければなりません。
コードを作成しては実行し、イメージ通りの動きかどうかを検証します。
また登場するキャラクターが増えることで、全体での流れはもちろん、キャラクター一つ一つの動きに至るまで厳しい目でチェックをしていました。
Scratchでは登場させる各キャラクターに対してプログラミングする必要があり、それによってバグも生じやすくなります。
一気に仕上げようとはせず、作業工程を区切りながら確認をしていきました。
このように自分たちでカタチにしていく過程において、今までに学習してきた知識と講師によるアドバイスを元に、「トライ&エラー」を繰り返しながら完成を目指す様子がとても印象的でした。
Scratchでプログラミングしたストーリー作品(上からゴミのポイ捨て問題、言葉の問題、警備の問題)
オリンピックという、ひとつのテーマからさまざまなプログラミングの体験、そして身近な課題の解決法をプログラミングを使って考える経験をした生徒たちの表情は、とても輝いていました。
スマートフォンやタブレット、PCは動画視聴やゲームのためだけの機器ではなく、より知見を広げるために活用可能なことはもちろん、IT技術を味方につけてこれからを生きていく子どもたちの後押しにもなることがおわかりいただけたのではないでしょうか。